「三池のこどもたち」

東京の保母が綴った三池争議現地視察報告

(全国私立保育園連盟 機関紙「保育通信」昭和35年6月5日付け より)



 マスコミが報ずる三池の様子は闘争第一線のニュースだけで、そのかげにある子どもの問題に触れて いません。このことは児童福祉問題に無責任な行政機関や、一般社会の無関心さがはっきりと出ていると云えるのではないで しょうか。もしそうならば私たちは今すぐ何をなすべきでしょうか。
 5月7日、私は三川鉱ホッパー問題で緊迫しきった三池労組闘争本部を訪ね、主婦会幹部の人や、退職勧告を拒否して労組の 闘いに加わっている保母さんに保育所の実状を聞き、ピケに出払ってガランとした社宅をまわり、警官の宿泊所と化した保育 園を見ました。
 夜は、連日の疲れも見せず、明朝も3時半動員だという主婦会のメンバー(特に幼児のいる母親)が、私の希望を受け入れ て集まり、11時頃まで話し合いました。
 こうして私が観たまま、感じたままを整理して、三池の子どもたちを案ずる皆さんにお知らせしたいと思います。
 三池には、会社経営の保育園が16箇所あり、ほとんどが認可施設です。設立は大正5年4月1日、当時30名位の乳幼児の託児 所として始められ、認可されたのが昭和23年7月1日、定員86名の宮ノ原保育園が最も古く、昭和33年開園の定員140名の七夕 保育園が最も新しいとのことでした。
 会社が託児所をつくったのは、婦女子の労働も必要とする業界の情勢のなかで、労務管理上、また福利施設としての目的か らでした。今では定員も最低25名の所から最高450名という大きな所もあり、一ヶ所平均100名としても1600名を収容している わけですが、16箇所のすべてが社宅内の子どもで定員一杯となり、外来社員の子どもはごく一部しか入れない状態、しかも外 来社員の二倍以上も多いということでした。
 確実な数はわかりませんが、約60名の保母のうち20名位に退職勧告状が出ており、なかにはおとなしく退職した保母も数名 います。したがって、保母の間でも第一、第二組合への分裂は必然的です。
 三池で私を案内してくださった川野さんは、勧告を拒否して闘争本部で活躍していますが、職場は宮ノ原保育園でした。こ こでは去る12月4日、保母3人のうち2人が勧告を受けて16日以後の立入禁止を言い渡されています。当の在籍73名。これを1人 で保育しなければならなくなった保母さんの苦労も、子どもの状態もどんなだったろうと思いやられます。会社の係員は手伝い を口実に出入し、勧告を出された保母の立ち入りを監視したのです。川野さんはいよいよ出勤できなくなることの心境について 多くは語りませんでしたが、その怒りと事態の真相を社会に伝えようとNHKのテレビ撮影を求めて精一杯の抗議を示したの です。ところがそのニュースに対して何の反響もなく、これに失望したのは川野さん一人ではなかったと思います。また川野 さんは文通によって子どもとのつながりを持とうと思いつき、「先生、早く帰ってきてください」と訴える子どもの手紙に、 ひとしおの情熱を燃やしていました。父親や先生の首切りを見つめる子どもたちは、彼らの生活のすべてで、その感受性を発 揮していました。まさに家族ぐるみの闘争のなかにあって、組合分裂後の子どもたちは、「第二組合の子とモノ云うな」など と対立感情をはっきり出しています。教育庁では子どもの場、つまり教育の場に対立感情を持ち込まぬようにと指示を教育委 員会に発していますが、大人も子どもも対立の火は燃え盛っているのです。
 さて、1月から3月まで残った保母の手でまがりなりにも保育は続けられましたが、いよいよ4月に入ると会社は組合の子ども を16箇所の保育園から追い出し、警官の機動隊本部や宿泊所として提供しました。私が観た宮ノ原保育園は第一大隊、第三中 隊の宿泊所となり、事務室には警官専用の電話がひかれ、32坪と20坪の保育室には警官のスーツケースがずらりと並び、毛布 などが敷き詰められ、洗濯物がひろげられるなど、子どもたちの生活まで踏みにじるような非道極まる姿を目の当たりにしま した。
 遊び場を奪われた子どもたちは両親ともピケに出てしまった社宅のあちこちに放任されており、私たちの姿を見つけて飛び ついてくるのです。いま子どもの相手になってやれる大人は社宅内にはひとりもおらず、ある母親は「ピケや炊き出しに出て いても子どものことが心配です。近くの私立保育園に入れた家もあるけど、1万円生活では家族が多いので600円の保育料を払 うのが大変で・・・」と子どものことを訴えていました。この問題に対して地域の保育関係者の動きは沈滞を極め、むしろ組 合員の子どもが入園してくるという事態を抵抗なしに受け入れているのではないかという印象を強くしました。
 未認可施設といえども、このような事態は許されることではありません。まして認可施設とあっては明らかに違法です。こ の事実を厚生省や自治体はどうみているのでしょうか。
 第一、第二組合の差別なしに、三池の子どもたちはいまこそ保育に欠けているのです。三池の保母さんたちはいますぐ話し 合って、あちこちでウロウロしている子どもたちを集めて保育し、母親も安心して明日への希望に立ち上がれるようになるこ とが、保母としての急務です。この大きな状況の中では"保育"の問題など考えていられないというのが三池労組やこれを支援 するオルグ団の考え方のようですが、私たち児童福祉関係者のオルグや激励で、現地の保母さんたちもきっと保育のために立 ち上がるでしょう。
 私が見たオルグ関係者名簿に児童福祉関係者はおろか社会事業関係者の名前すら見当たらなかったことは、現地の保母さん や子どもたちに対して実に大きな責任を感じ、同時に保育界の組織力の弱さを痛感しました。
 紙面の都合で簡略なものにしましたが、これで三池の保育所の実状についていくらかでも理解していただきたいと思います。  児童福祉の立場から、三池の保母さんを激励し、奪われた保育園が子どもたちに返され、安心した子どもたちの笑顔が見ら れるように、私たちの支援を実践に移しましょう。(東京・保母T)

BACK